丹田腹筋運動 前回のコラムで「等尺性収縮により腹腔内圧を高めることで背筋の負担を減らすことができる」と書きました。 そして腱引き療法ではそのための運動を教えると。 実際にどんな運動をするのかが、今回のお話。 運動そのものは単純なもので、見た目は脚を上げる腹筋運動になります。 しかしこの単純な動きの中でお腹を使うという命令系統(使い方)を作り上げてもらいます。 この命令系統のことを腱引き療法では「脳の運動プログラム」と呼んでいます。 そのためにまず準備段階として、仰向けになってやってもらう運動が二つあります。 準備運動としてやること まず一つは〝腹式呼吸〟。 特別なものではなく、通常の腹式呼吸です。 この腹式呼吸を習慣づけるだけでも腹腔内圧を高めることができます。 腹式呼吸が上手くできるようであれば次にしてもらうのが、お腹を膨らませて息を吸ってもらったあと、今度は〝お腹をへこまさないように〟息を吐いてもらうというもの。 慣れない方は最初、難しいと思います。 このとき自分のお腹がどうなっているか、少し気にしてみてください。 お腹をへこまさないように息を吐こうとすると、下腹部に力をいれないといけないことに気づくと思います。 この運動の意味は、意識的に下腹部に力を入れてもらう感覚を得ることです。 これによって腹筋(特に下腹部)を等尺性収縮させて腹腔内圧を高めるという筋肉の使い方が学習できます。 以上の二つができるようになるといよいよ本番です。実際に日々行ってもらうのは、次の運動になります。 要は脚を上げる腹筋をしてもらうのですが、やはり手順があります。 丹田腹筋運動の手順 1.まず腹式呼吸の吸う動作によってお腹を膨らませる。 2.次に両足の踵を揃え、脚を伸ばした状態で30°以下を目安に両脚を上げる。 3.次に両脚を上げた状態で、お腹を膨らましたまま息を吐く。 4.息を吐き始めたら、ゆっくり両脚を降ろす。 気を付けるポイント 気をつけるべきポイントは脚の角度。脚を伸ばして上げることにより腹筋は強制定期に仕様されます。 実際にやってもらうとわかると思うのですが、このとき脚を上げる角度を90°に近づければ近づけるほど腹筋の上部を使っていることに気づくと思います。 しかし力を入れたいのは、下腹部の筋肉。 下腹部の筋肉を脚上げによって強制的に働かせるには浅い角度で脚を上げる必要があります。 1日5回が目安 この運動を寝る前に5回で構いません。習慣づけてみてください。 腱引き療法ではこれを「丹田腹筋運動」と呼んで指導しています。 お腹を使うプログラムを作る 個人的に、丹田腹筋運動は腱引き療法でいう「脳の運動プログラム」というものを一番理解しやすい運動指導だと思っています。 まず腹式呼吸を行うことで〝息を吸う状態で腹腔内圧を高める方法(筋肉の使い方)〟を学習できます。 次にお腹をへこまさないように息を吐いてもらうことで〝息を吐く状態で腹腔内圧を高める方法(筋肉の使い方)〟を学習できます。 そして両脚を浅く上げることで強制的に下腹部の筋肉を働かせ、より強く筋肉の使い方を印象づけます。 これにより等尺性収縮による腹腔内圧を高める筋肉の使い方が効率よく脳にプログラムされます。 すると立った状態でも腹圧をかけることが簡単にできるようになります。 試しに2回ほど前屈をしてみてください。 腹筋と背筋を連携できれば、慢性腰痛にも効果的 1回目は何もせずに前屈をします。この時のお腹と腰周りの感覚を覚えておいてください。 2回目は下腹部に力を入れ、腹圧をかけた状態で前屈してみます。お腹と腰周りの1回目との違いを感じてみてください。 恐らく、多くの方が2回目はお腹で支えてくれる感覚があると思います。 そして腰周りが1回目より楽になっていると思います。 前屈の例で分かるように腹筋と背筋を連携させて動くことで、背筋側の負担は減ります。 ですから重いものを持ち上げるときや、腰を曲げての作業をするときなどはお腹に力を入れてみてください。 ぎっくり腰だけでなく慢性の腰痛の予防にもなります。 日本人が理想とする骨盤の角度 東広島道場では腹筋と背筋の関係をお伝えする際、もう一つ伝えていることがあります。 それは骨盤の角度です。 骨盤の角度というとみなさんはどんな言葉を思い浮かべますか? 前傾や後傾。あるいは骨盤を立てると答える人が多いんじゃないかと思います。 骨盤が前傾だと反り腰。後傾だと猫背の方が多いといわれますね。 そして骨盤は立てた方がよいと。 では実際に骨盤が立っている状態とはどんな角度なんでしょう? 理想的な骨盤の角度を体感する方法 よく図解などではみますが、その角度になっているか確認するのが難しいですよね? 実は簡単に角度を確認できる方法があります。 それは仰向けになって、両膝を立てることです。 この姿勢になったときの骨盤の角度が理想的な角度です。 試しに腰の部分に手を差し込んで、脚を伸ばしたときと写真のように曲げたときの腰と床との隙間を比べてみてください。 殆どの方は両膝を立てたときの方が、腰と床との隙間が狭くなっていると思います。 これは骨盤の角度が変わったからです。 立ち上がった状態でこの角度が維持できれば、骨盤は立っていると言えます。 立っている時にこのような骨盤の角度にしようとすると、恥骨を引き上げるイメージで下腹部の筋肉に力を入れる必要があります。 丹田腹筋で下腹部を使って腹圧をかける方法が分かっていれば、その要領で腹筋を使って少し恥骨を持ち上げてあげるとこの角度になります。 そのとき背筋は緩くなり伸びているのを感じることができると思います。 ちなみに両膝を立てる(脚を曲げる)さいにお腹に手を置いてみてください。 このとき腹筋が強く働くようであれば、脚を曲げる時に使う大腰筋をうまく使えていません。 逆に大腰筋が上手く使えていれば腹筋は殆ど動きません。 骨盤を立てることが日本人の体に合う理由 先に説明をした骨盤の角度が日本人に一番合っていると私は考えています。 理由は二つ。一つは着物の帯です。 骨盤が立っていると、帯を巻きやすい 帯というのはベルトと違います。ベルトはボトムがずり落ちないように骨盤の上で締めます。 しかし帯は骨盤を締めるようにして巻きます。 このとき骨盤が前傾だと反り腰になって帯巻いても安定しません。 帯をする和装であれば骨盤は立っていた方がよいし、当時は普段から骨盤は立てていたはずです。 実はこの骨盤に帯を巻くというのは腰痛を和らげるのにも役立ちます。 これはお客さんに教えてもらった方法なのですが、マジックテープ留めになっている伊達締めを後ろは骨盤から当てて恥骨の前で留めるように巻くと良いそうです。 引いて使う伝統的な道具が多くある もう一つは日本の導具は〝引く〟ことで使う道具が多いということです。 鋸(のこぎり)や鉋(かんな)、鍬(くわ)など、引くことによって使います。同じ鋸や鉋でも海外のものは押すことで使います。 この〝引く〟道具が多いのは、日本人は「しゃがむ」という動作が習慣だったからだと、私は考えています。 しゃがむ生活習慣から、”引く”道具は生まれた? しゃがむ動作が多かった日本の生活様式 以前にも書きましたが、昔の日本の家屋では床に直接座る(正座やあぐら)のが普通でした。そのためにはしゃがむことが必要になります。 或いは外で休憩するときにはしゃがんで休憩している人が昔は多かった。 遊びぶのもそう。「かごめかごめ」なんかは、真ん中にいる人間がしゃがんで顔を伏せます。 更にはトイレ。和式トイレが当たりだった時代は足を広げてしゃがむという動作が必要でした。 昔の日本は子供から大人まで、みんなしゃがむという動作を日常的にしていたんですね。 しゃがむ姿勢では骨盤が立つ しゃがんでみると分かると思うんですが、このとき骨盤は傾きます。腰から上は前にでるので相対的にみて前傾になりますが、体の中で考えると立つ~後傾ぎみになります。 日本人は骨盤が後傾ぎみの人が多いというのは、こういう背景があったからじゃないのかなと思います。 で、しゃがむという習慣から腰から上は前傾になる(骨盤は立つ)姿勢は日本人に馴染みが深かった。 座って作業する場合はもちろん、立って作業する場合もそうです。 骨盤が立っていると、モノを引く動作で力が入りやすい そうなって来ると押す動作より引く動作の方が力が入ります。 試しに壁に向かって正座してみて下さい。そして壁を押す時に背中を少し丸めた場合(骨盤を立てる~後傾)と、腰を後ろに反らした場合(骨盤を前傾)で違いを感じてみて下さい。 骨盤が立てる(後傾した)方が押し戻される感覚が強いと思います。 これが逆にモノを引く動作になると、骨盤が立って(後傾して)いる方が楽になります。 同じく正座して目の前のモノを引き寄せてみてください。 骨盤が前傾していると腕だけの作業になってしまいます。しかし骨盤が立って(後傾して)いると体幹の筋肉も動員して楽に作業を行えます。 体の使い方に合った道具が生まれた 道具というのは、それが生まれた社会背景・生活習慣の中で暮らす人々が使いやすいと思った形で生まれてきます。 〝引く〟ことで使う道具が多いということは、普段からこういった道具を使うのに便利な体の使い方をしていたことです。 そしてそれには、骨盤の角度が影響しているのではないかと思います。 また上記の姿勢で〝引く〟動作をしたとき、自然とお腹に力が入りませんでしたか? もしくはお腹に力を入れる(腹圧をかける)方がスムーズに出来ませんでしたか? 骨盤の角度は腹筋の使い方にも関係してくるのです。 体を満遍なく効率的に使うことが健康に生きるヒント 欧化した生活習慣の中で日本人の体型が変わっているのでこれからの若者は変わっていくかもしれません。 しかし骨盤の角度。和式歩行。腹筋の使い方など、まだまだ現代の日本人であっても思い出すべき昔の体の使い方というのはあると思います。 便利になって体を使わなくなった現代社会はでは、使わないことによる不調というのがいくつも見られます。 昔のように体を満遍なく効率的に使うということが、健康に生きていくためのヒントになるのではないかと思います。 みなさんももう一度、自分の体をいうものを気にしてみてください。 筆者プロフィール 河野 伸幸 筋整流法 専門指導施術師 筋整流法 東広島道場 道場主 350年続く武術流派の活法であった〝腱引き〟。その腱引きの技を元に現代に合うよう改良されたのが『腱引き療法』になります。 お店の名前が道場となっていますが、これは武術の活法が起源であること。また一方的に施術するだけでなく共に学び合う場所、という意味が込められています。 どこに行ってもダメと諦める前に、腱引き受けに来てみんさい!
2027
筆者プロフィール
河野 伸幸
筋整流法 専門指導施術師
筋整流法 東広島道場 道場主
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