皆様こんにちは、u-balからだ塾の上原です。 患者目線でお送りしております『患者力』シリーズ、8回目は『先入観』についてお話しします。 左肩の痛みで来院したある男性の話 昨年のお話になりますが、私のところに左肩を訴える20代男性の直樹さん(仮名)が紹介でいらっしゃいました。 左肩の外旋(例えば車の運転席にいて、後部座席に置いてある物を取ろうとする肩の動作)の痛みが激しく見られました。 この方はスポーツトレーナーでボディビルの大会に出場しており、今後に向けてトレーニングしたいが、どうしてもこの痛みで左肩のトレーニングがままならないと言うお悩みでした。 確かに日常生活上では何とかごまかして使う事は出来るかもしれませんが、やはり見た目を競う競技、出来るだけ左右対称は維持したいのは無理もありません。 カウンセリングをしていると他に体のあちこちに異常がみつかり、特に側弯(背骨が正面からみたときに、右もしくは左にカーブしていること)に関しては見た目でも分かるくらいひどいものでした。 肩の痛みの原因は側弯だと過去に指摘されていた 過去に行かれた整体や接骨院では左肩の異常はこの側弯から来ていることも指摘され、いろいろと治療は受けたもののなかなか良い結果を得られなかった、とのことです。 直樹さんもそういった意味でこの側弯を何とかできないか、と言う訴えでした。 しかし色々と触ってみた結果、肩の異常は側弯とは関係ないだろう、と施術者として直感的に感じました。 ただしあくまでも直感ですので、様々な可能性を考えてあれこれ試すことといたしました。 原因は肩にあるはず・・・病院での検査をすすめる 施術をすると良くはなるものの、またすぐに元に戻ってしまうと言う繰り返しでした。 それどころか、年末年始の長期休暇があけたころにはむしろ悪化しており、トレーニングがしばらく出来ていない状態が続いてしまったのです。 この時点で特に側弯に変化は見られなかったので、やはり原因は側弯ではなく、肩自体に異常があると感じていた私は、何とか病院での検査をお願いしたいところでした。 が、直樹さんはもともと病院嫌いという事もあり、やはり側弯を良くすることを主眼においていたため、聞き入れてくれませんでした。 別の治療家も肩に異常があるという見解。ようやく病院へ そこで、私は直樹さんをいったん仲間の治療家に紹介することといたしました。そして直樹さんに伝えました。 『もし僕の友人も同じように検査が必要だと言ったら、それはその時で受け入れなさいね』 私は自分の意見は何も添えることなく友人に紹介いたしました。 そうしたら驚くことに、出てきた見解は私と全く同じ。側弯とは無関係、病院での検査が必要とのことでした。 数回友人のところに治療を受けに行った後、直樹さんはようやく重い腰を上げてくれて、検査を受けて頂くことになりました。 検査の結果肩関節内に腫瘤が見つかる 検査の結果・・・ 肩関節内に『ガングリオン』が見つかりました。 ガングリオンと言えば、良く手首に好発する腫瘤のことです。 詳細は>>こちら 日本整形外科学会HP 私も友人も異常がみつかった場合は手術を想定していましたが、まさかガングリオンが肩の中にあるとは思ってもみませんでした。 これがその時の画像です↓ ガングリオンはもちろん悪性ではないので、必ずしも除去をする必要があるわけではなく、今回も手術で取るかは直樹さん次第となりました。 手術もリスクがありますし、仮に取り除いたところで必ずや現在障害となっている症状が治る保証もありません。 それだけに苦渋の決断だったと思いますが、今後の人生を考え、少なくともこのままの状態はいやだという事で手術に踏み切ることとなりました。 そしてリハビリは私の友人が担当することになりました。 先入観を捨て、他の可能性を受け入れる!柔軟な考え方の大切さ さて、ここで起きたことをまとめておきたいと思います。 ・直樹さんは肩の痛みは側弯からくるものと思い込んでいた ・それを元に、これまでの治療は側弯を治そうとする施術が多かった ・セカンドオピニオンを通してようやく病院で検査を受けることを受け入れた ・原因は側弯ではなく、肩の内部にあった 直樹さんは学生時代からスポーツに明け暮れ、自分の身体と長く向き合ってきたことで、からだに起きていることを多かれ少なかれ理解することは通常の人よりは得意だったと思います。 しかし、その先入観が今度は自分のみならず、専門家の意見までも違った方向に誘導してしまいました。 『きっと~が原因』 『今回は単なる~な状態だと思う』 自分の身体ですし、そこに何らかの先入観を持ってしまうのは致し方ないことではありますが、そのことが時として周囲の意見を変えてしまうことは理解しておかなければなりません。 もちろんなんでも治療家任せにしろと言っているわけではなく、自分の考えも人から言われたことも一辺倒に決めつけるのではなく、膨大な可能性の中の選択肢としてとらえることが重要、という事なのです。 医療に関しては情報過多のこの時代、なおさらです。 まとめ:『決めつけない先入観を持とう』 ~おまけ~ 結局今回直樹さんが検査を受けいれたのは、私の友人との信頼関係がしっかり出来ていたからでした。 友人は数回かけてしっかりとコミュニケーションをとり、身体を分析し、検査の必要性を説明したそうです。 逆に言えば、そのことを私は彼にしてあげられなかったということ。 私自身、施術力・判断力・接客力ともにまだまだ足りないと感じる一件となりました。 現場ではどうしても施術者が優位となり、患者は弱い立場になりがちです。 しかし、間違いなく施術家はお客様に育ててもらいながら成長していくものです。 施術家として、つねにそう言った謙虚な気持ちを忘れないで行きたいものですね。 『ちゃんとした治療を受けたい』 『手は抜かれたくない』『きちんと診てもらいたい』 患者側からすれば誰もが願うことですよね。 一方、治療家側から見ると、どれだけ公平に患者様に接しようと思っていても、1日何人、何十人と診ていると、知らないうちに実はお客様を選別しています。 そんな中、より先生を本気にさせ、より適切な治療を受けるための『患者力』をつける方法を、シリーズでお伝えしていきます。 【これまでのコラム】 Vol.1: 『治療院に通っても治らない・・・を防ぐためにできる、たった1つのこと』 Vol.2: 『より効果の高い施術を受けるために知っておくべきこと』 Vol.3: 『治療院で良いアドバイスをもらうのに心掛けることは1つ!自分の情報を伝えること』 Vol.4: 『骨折の手術後でしびれが続く!改善させるためある女性がとった行動とは?』 Vol.5: 『意識するのは2つだけ!腰痛や肩こりを早く治してもらうための質問力とは?』 Vol.6: 『セカンドオピニオンの本当の活用法<前半>』 Vol.7: 『セカンドオピニオンの本当の活用法<後半>』 著者:上原健志 出版社:中経出版 筆者プロフィール 上原健志 うえはら整骨院院長 セラピストの為の解剖生理学塾u-balからだ塾、 マジックハンズ・セラピストアカデミー代表 女子サッカー『INAC多摩川レオネッサ』チームトレーナー、<資格>柔道整復師、ケアマネージャー、米国NSCA認定パーソナルトレーナー、英国ITEC,CIBTAC国際ライセンス(解剖生理学)、上海中医薬大学短期研修修了(解剖学) 現場での施術はもちろん、プロ向けの指導にも尽力しており、難しい解剖生理学を現場目線で分かりやすく説明するスタイルは、プロ・アマ問わず多くの支持を受けている。 体に関する商品開発など、コラボ企画も多数。
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筆者プロフィール
上原健志
うえはら整骨院院長
セラピストの為の解剖生理学塾u-balからだ塾、
マジックハンズ・セラピストアカデミー代表
女子サッカー『INAC多摩川レオネッサ』チームトレーナー、
<資格>柔道整復師、ケアマネージャー、
米国NSCA認定パーソナルトレーナー、英国ITEC,CIBTAC国際ライセンス(解剖生理学)、上海中医薬大学短期研修修了(解剖学)
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