筋肉は収縮するのがお仕事 前回のコラムで「人間の動きは伸筋と屈筋――二つの拮抗する筋肉の伸縮が産み出しています。大事なのはそのバランス。筋肉の連携になります。」と書きました。 今回はその辺りのお話。 人間の体というのは骨格という基礎があり、骨を靱帯で繋ぎ、筋肉で繋ぐことによって動かします。 筋肉というのは基本的には縮む(収縮する)ことしかできません。 筋肉の伸び縮みという言い方をよくしますが、能動的に伸びている(伸びる方向に力が働く)わけではなく縮むという動作をやめているのです。 例えば上腕の場合、肘を曲げると力こぶができます。この力こぶが上腕二頭筋で、このとき筋肉は縮んでいます。上腕二頭筋は屈筋になります。 では反対に腕を伸ばすときはどうか? この時働くのが上腕三頭筋。 上腕二頭筋のちょうど反対側についている筋肉です。上腕三頭筋は伸筋になります。 腕を曲げると上腕二頭筋が働き(縮んで)、上腕三頭筋は縮むのをやめます(伸びる)。 腕を伸ばすときはその逆。上腕三頭筋が働き(縮んで)、上腕二頭筋は縮むのをやめる(伸びる)のです。 と、これを読んで 「あれ? 上腕三頭筋は〝伸〟筋って言うのに縮むの?」と思ったアナタ、なかなか鋭い。 〝伸筋〟〝屈筋〟というのは筋肉の機能そのものを指すのではなく、動き全体の作用としての分け方になります。 ですからすごく大雑把に言って〝屈筋〟というのは「体を曲げるときに使っている筋肉」。 〝伸筋〟とは「体を伸ばすときに使っている筋肉」と覚えるといいと思います。 人間の体というのは、二つの相反する作用をもつ筋肉を連携させて動きを産み出しているんですね。 背中の反対はお腹? 腰痛の時に痛いと感じるのは腰周りの筋肉になります。背中側にあるいわゆる背筋群(脊柱起立筋など)ですね。 「背筋を伸ばす」という言葉があるように、この背中の筋肉は主に体を直立させるために使います。 ぎっくり腰などで腰が伸ばせないのは、この筋肉のどれかに故障が起きたからです。 そして人間は体を前に曲げる(前屈する)こともできます。 上に書いたように、人間の体というのは、二つの相反する作用をもつ筋肉を連携させて動きを産み出しています。 なら、背中側の筋肉と相反する作用を持つ筋肉は? そう、背中の反対。お腹にある筋肉(腹直筋など)です。 背筋を伸ばすときは背筋側が働き(縮んで)、腹筋側が縮むのをやめる(伸びる)。 逆に体を曲げる(前屈する)ときは腹筋側が働き(縮んで)、背筋側が縮むのをやめている(伸びる)ことになります。 ではこの時に縮むのをやめている(伸びている)筋肉は休んでいるのか……というと、実はそうではありません。 最初に「筋肉というのは基本的には縮む(収縮する)ことしかできません」と書きました。〝縮む〟と書くと筋肉全体の長さが変わっているように思いますよね? もちろん筋肉全体の長さが変わることによっても、力は発揮されます。 しかし筋肉は伸ばしながら力を発揮する(収縮する)ことや、その長さを変えないで力を発揮する(収縮する)こともできるのです。 伸張性収縮と等尺性収縮 水の入ったバケツを降ろすとき。あるいはダンベル運動で降ろすときを思い浮かべてください。 いずれも腕を伸ばしながら、でも力は入っています。伸びていても筋肉は働いて(収縮して)いるんですね。 もし伸ばすときに完全に力が抜けてしまったら、バケツやダンベルを落としてしまします。ですから落とさないように力を入れているわけです。 これを伸張性収縮と言います。 両手を胸の前で合わせて、動かないように均一に力を加えている状態。あるいは倒れてくる壁を支えている状態を思い浮かべてください。 これは筋肉の長さは変わらないのに収縮しており、力を発揮できる状態になっています。 これを等尺性収縮と言います。 ではこの伸張性収縮と等尺性収縮がどのように腰痛に関係してくるのか? 例えば腰を曲げて(前屈の状態)重いモノを持ち上げるとき、腹筋は縮んで背筋が伸びた状態です。 このとき、多くの人は背筋に頼り切っています。 すると体を必要以上に曲げないよう、背筋に伸張性収縮が働いて〝背筋で引っ張り〟ます。 曲げた状態で伸張性収縮が起きているとということは、背筋が縮んだ(背筋を伸ばした)ときも伸びた(腰を曲げた)ときも常に働いているということです。 それは背筋は常に緊張した状態が続いているということになります。 そうなってくると回復する間もなく背筋は疲労し、反応が遅れ筋ちがいを起こします。或いは単純に疲労の蓄積により痛みを感じるようになります。 それを防ぐにはどうすればよいのかというと……腹筋の活用です。 腹筋は腰を前に曲げる際に働きますが、それ以外にも腹筋に力を入れることにより腹圧をかけることができます。 この時に行われる腹筋の働きが等尺性収縮になります。 腹圧とは体内からの圧力です。これを腹腔内圧と言い、高ければ高いほど背骨に対する負担が減ると言われています。 背骨に対する負担が減るということは、背骨を支えている背筋の負担も減るということです。 また腰を曲げた状態で腹圧をかければ、前で支えてくれる感覚が得られます。そうなれば背筋の伸張性収縮のみに頼って体を支える必要はなくなります。 腰痛の原因がすべてこれ……とは言いませんが、腰の状態を整え腹筋の利用を促す施術により多くの腰痛が改善していることも事実です。 腰痛の何割かはこの筋肉の疲労による痛みや故障ではないかと思います。 このように腱引きでは腹筋と背筋を含む胴回りの筋肉をワンユニットととして、腰痛の改善を目指します。 筋肉の「ある・なし」ではなく「使えてる・使えていない」 人間の動きの中で大事なのは筋肉の連携です。 今回の例で言えば、腹筋を使い背筋に頼り切らないことで負担を減らし腰痛を予防することができます。 こういった話をうちに来られるお客さんにすると、よく「腹筋がないから」と言われます。 或いは「いつも腹筋をしてしっかり鍛えているのに」と言われます。 しかし腹筋の「ある・なし」は大きな問題ではありません。重要なのは腹筋を「使えてる・使えていない」かなのです。 そして腱引き療法では腹筋の使い方を運動指導によって教えます。 どのような運動を指導するのか……それは次回に。 筆者プロフィール 河野 伸幸 筋整流法 専門指導施術師 筋整流法 東広島道場 道場主 350年続く武術流派の活法であった〝腱引き〟。その腱引きの技を元に現代に合うよう改良されたのが『腱引き療法』になります。 お店の名前が道場となっていますが、これは武術の活法が起源であること。また一方的に施術するだけでなく共に学び合う場所、という意味が込められています。 どこに行ってもダメと諦める前に、腱引き受けに来てみんさい!
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筆者プロフィール
河野 伸幸
筋整流法 専門指導施術師
筋整流法 東広島道場 道場主
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