一般にはまだあまり知られていない椎間板ヘルニアの新常識
腰痛の原因として一般的にもよく知られている腰椎椎間板ヘルニア。ヘルニアになると腰が痛み足がしびれて最後は手術しないと治らない、そんな印象をお持ちではないでしょうか。 実は椎間板ヘルニアをはじめとする腰痛の研究は進み、以前のようにヘルニアが見つかれば必ず手術が必要という考え方ではなくなりました。 もちろん、ヘルニアの圧迫により重篤な神経の麻痺が起こることもあり、「馬尾症候群」は緊急に手術をしないと後遺症が残るといわれています。 しかし、馬尾症候群のような緊急に治療を必要とする麻痺が生じることは非常にまれなケースと言えます。 腰椎椎間板ヘルニアとは何か 腰椎とは普段あまり使わない言葉ですが、分かりやすく言うと腰にある背骨のことです。腰椎は5つの骨が積み木のように重なった構造になっていて、その骨同士の間にクッション材の役割として挟まれているのが椎間板です。 椎間板ヘルニアとは、この椎間板内部にあるゼリー状の組織が一部椎間板の外に飛び出した状態で、このヘルニアに神経が圧迫されて神経症状が生じるという考え方です。 ヘルニアがあっても無症状 椎間板ヘルニアによって神経が圧迫されて腰痛やしびれが生じる。ほとんどの人がそうイメージするのではないでしょうか。 しかしながら、椎間板ヘルニアで痛みやしびれが出ている人はごく一部で、ヘルニアがあるだけでは痛みが発生しないことが分かっています。 その根拠の一つに、腰痛がない健康な人の大部分は椎間板ヘルニアを持っていることがあります。ある研究によると、腰痛のない人を集めて腰のMRI画像を調べたところ、その76%に椎間板ヘルニアが見つかっています。 つまり、腰痛がなくて椎間板ヘルニアを持っている人が8割近く存在することから、椎間板ヘルニアがあるだけでは腰痛などの症状は起こらないと考えられています。 椎間板ヘルニアの危険因子 力仕事、不良姿勢、体重の増加、スポーツ、車の運転…。これらは腰の負担を増やし、椎間板の変性にも影響をあたえそうな気がしますね。しかし、そういったイメージをお持ちでしたらそれは誤解といえます。 このような研究があります。 ‘’椎間板変性は遺伝子の影響’’ 115組の一卵性双生児を集めMRIで比較した研究によると、物理的負荷と椎間板変性は無関係(Battie MC.et al,Spine,1995) BMIが高い(体重が多い)、作業強度が高いと椎間板変性が遅れることが分かっていますし、仕事やスポーツなどによる負荷は椎間板変性に直接関係しないとされています。 ヘルニアは腰痛の犯人か 実は椎間板ヘルニアの多くは何もしなくても自然になくなっていきます。椎間板から飛び出した組織を免疫細胞が食べるため、ヘルニアの多くは半年ほどでなくなってしまうのです。 ですから、最初の検査で椎間板ヘルニアと診断されても、数ヶ月後にまた画像検査をした時には異常がなくなっているということはめずらしくありません。 しかしながら、ヘルニアが消えていても痛みが一緒になくなるとは限らないところが腰痛の難しいところです。 冒頭で少し触れましたが、ヘルニアを持っていて痛みが伴う人はごく一部ですし、腰に異常がなくても腰痛を訴えるケースも多く存在します。 これらの事実を合わせて考えてみると、ヘルニアが腰痛を引き起こしている犯人とは必ずしも言えないことが分かります。 さいごに 痛みのない健康な人にもヘルニアがある。ヘルニアの手術をしても良くならないことがある。ヘルニアがあっても時間とともに自然に治ることがある。このような、従来の考え方では説明できない矛盾に薄々気がついていても、昔から言われていることや自身が調べたり勉強してきたことが正しいと人は思うものです。 しかし、情報は常に新しくなっているため、本やインターネット、メディアなどから入ってくる情報を鵜呑みにしてしまうと、不正確な情報を信じてしまうことになりかねません。 たくさんの情報の中には間違ったことや極端な表現が多く存在していることを理解し、その情報に振り回されず、根拠のある正確な情報を選び取ることが大切と言えます。 筆者プロフィール 青葉 秀樹 あおふじ整骨院院長 柔道整復師 EFT-Japan プラクティショナー SAJ スキー準指導員 山形県遊佐町生まれ。あおふじ整骨院院長 脳、神経の働きに注目し、痛みや不調を繰り返さない激しい運動でも痛まない健康な体づくりをサポート。身体的問題にも感情が関係していることが多いことから、心と体の両面に目を向けた施術を行っている。
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