関節をボキボキ鳴らすと身体を蝕む!体の不調や痛みの原因にも
中学3年の頃、隣のクラスにコウちゃんという友達がいました。 剣道部でケンカが強くて頭が良くて、今でいうイケメンというのとはちょっと違うけれど、男っぽい顔つきをしたカッコイイ奴でした。 ある日、そのコウちゃんと二人で何かの話をしていた時でした。 「吉川、これ出来る?」 と言いながらおもむろに片方の手のひらを自分の顎に当て首を横に捻りました。 ボキボキボキッとものすごい音がしました。 指の関節くらいは鳴らしたことはありましたが、首がそんなにものすごい音がするなどとはそれまで知りませんでした。 私がびっくりしていると、コウちゃんはもう片方の手に変えて、こんどは逆方向に捻ります。 ボキボキボキッ またもや大きな音がします。 馬鹿な私はその時、 「すごい!」 と思ってしまったのでした。 相手が別の友達だったらそうも思わなかったのかも知れませんが、他でもない、硬派のコウちゃんです。やり方をその場で教わりました。 やってみると案外簡単に音が鳴ります。 面白くなった私はそれから毎日首を鳴らすようになっていました。 それでちょっと大人の男になった気がしていたのです(笑)。 原因不明の痛みに悩まされる 最初は面白さだけでやっていたのですが、徐々に鳴らさないと収まりが悪い感じになって高校に進学した頃には1時間おきくらいに鳴らしていたように思います。 高校時代の私は首から右の背中にかけての痛みと常に戦っていました。 高校に入って本格的になった柔道部の練習のせいか、自己流で始めた筋トレのせいか、考えても分かりません。 分かっているのは首を鳴らすとすっきりすることです。 痛くなっては首を鳴らすことを繰り返すうち、時たま首から右腕にかけてビーンと強い電気が走ったりするようにもなってしまいました。 そして高3のある日、高重量でベンチプレスをやっていると頚胸移行部の右側が「ベキッ」と鳴り、そのまま動きが固まりました。 ことここに及んでやっと近くの外科を受診しましたが湿布を貰っただけでなんの解決にもなりません。 お袋の行っていた整骨院にも通ってみましたが、気持ちはいいけど治る気配がありません。 左にはかろうじて動かすことが出来る首も、右には倒すことも振り向くことも出来ない状態で固定されてしまいました。 動かそうとすると激痛が走るのです。首を鳴らせばまたすっきりするだろうとは思うのですが、鳴らすことなど出来るわけがありません。 そんな状態が10年近く続きます。 もちろん、当初より痛みは緩和されましたが、右に動かせないのは同じです。 キャビテーションという言葉との出会い キャビテーションという言葉と出会ったのは手技療法の世界に入ってからでした。 液体は常に気体になろうとしています。 圧力のちょっとした変化によっても瞬間的に気体になってしまうことがあります。 船のスクリューがよく引き合いに出されます。 進行中の船を水中から撮影した映像をテレビなどでご覧になったことがある方も多いと思いますが、回転するスクリューの廻りには気泡がいっぱい立ち込めています。 スクリューが回転することにより周辺の水圧が減少して細かな気泡がたくさん発生するのです。これがキャビテーションです。 そして、ちょっとイメージしにくいかと思いますが、この気泡が消滅する時にそれはもう莫大なエネルギーを放つのだそうです。 気泡がスクリューにぶつかって、時には金属製のこれをボロボロにしてしまうこともあるそうです。これをキャビテーションによるエロージョン(壊食・浸食)と呼びます。 人間の身体でもキャビテーションが発生する エロージョンの他にもキャビテーションがひき起こす問題としては性能悪化や騒音、振動などがあり、工学の世界はキャビテーションとの戦いだと言った人もいました。 人間の身体でもキャビテーションが発生することがあります。 代表は関節です。 関節の内部は関節液という名の潤滑液で満たされていますが、関節を引っ張ったり捻ったりして瞬間的に関節内の圧力が抜けた時、関節液に気泡が生じるのです。 そしてこの気泡が関節の内壁にぶつかり消滅する時にやはり莫大なエネルギーで関節内を破壊するのです。 スクリューや他の機械部品であれば壊れたらそこで終わりですが、人間の身体には修復作用が備わっています。 浸食された箇所を自ら復していくのですが、これがまったくの元通りにはなりません。 指が太くなるのはよく知られていますが、関節を常に鳴らしていると関節内部が変形してうまく噛み合わなくなります。 指ぐらいであればまだ被害は少ないのでしょうが(本当はそんなこともないのですが)、頚椎や腰椎の周辺には大事な神経や血管が通っています。 首や腰を鳴らしていると取り返しのつかないことになってしまう場合もあります。 あれっ、中学、高校時代の私ではないですか! 私は自分自身で頚の骨にキャビテーションを発生させ、内部を壊していたのです。 あの辛い痛みは私が自分で生み出していたのです。 もちろん、私の場合はそれ以外にも複合要因があったと考えられますが、振り返って思うに一番の戦犯はやはり首をボキボキしたことです。 関節を鳴らす癖はやめる 長引く身体の痛みや不調でお悩みの方、もし、どこかの関節を鳴らす癖をお持ちであれば先ずそれをお止めになることをおすすめします。 鳴らすと関節内の圧が抜けるので一時的にすっきりするのは分かりますが、どんどん深みに嵌ってしまう恐れが十分あります。 そして、私の場合はコウちゃんでしたが、大抵の場合、子供は大人が関節を鳴らしているのを見て真似をします。ぜひ、お気を付けを。 私はと言えば師匠に言って治してもらうわけにもいかず、自分でコツコツ頚椎内の潤滑を整える治療を自分自身に施しました。 当時はこの世界に入って間もなくだったこともあり、また、自分に施術するのは難しく、なかなか上手くはいきませんでしたが、三ヶ月も経つと何とか首を右にも動かすことが出来るようになりました。 正直、今現在も多少の違和感は残っているのですが、まあ、授業料です。 この経験によって身体を治すとはどういうことかを体得できたのは大きかったと思います。 ところでコウちゃんの首は無事だろうか。 筆者プロフィール 吉川良介 柔道整復師 吉川整体院長 昭和41年2月 東京生まれ 平成11年3月 「梅ヶ丘よしかわ整骨院」開院 平成17年8月 同院閉院 平成17年10月 東急世田谷線上町駅前にて「吉川整体」開院 現在、都内を中心に東北や、関西方面からも訪れて頂く患者さんの施術に忙しい日々 を送っている。
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