昔も今も、女の子の習い事として人気があるのが、バレエ。 スポットライトを浴びて踊る姿に憧れるのは、大人も子供も同じ。 しかしバレエは、美しいだけではなく、激しい運動でもあります。場合によっては、足を壊してしまうこともあるのです。 これまでに何人ものバレリーナを診てきました。痛む場所は様々ですが、調べると、ほとんどの故障が、たった三つの原因から起きていました。 ケガをする人が少しでも減るように、その三つのポイントをお知らせします。 足は、股関節から開く バレエで多用されるのが、つま先を外に向けたポーズ。このポーズには、姿勢を良くし、身体を伸びやかに見せる効果があります。 このポーズは、足を股関節からねじって外に向けるのが正しい方法。足全体が回って、膝頭が横に向きます。 かなり難しいポーズで、できるようになるには、年単位の訓練が必要です。 ところが、急いで形を整えようとするあまり、つま先だけを外に向けてしまう人が多いのです。 膝関節も、足首の関節も、前後に運動するための関節。外向けにねじれるようにはできていません。 無理にねじって動き続ければ、やがて靭帯や半月板を傷めます。 膝を傷めたバレリーナでは、ほとんどの場合、膝から下が外にねじれていました。 事故を防ぐには、時間をかけて、股関節から開くことを覚えなければなりません。 トゥシューズは、12歳以上で バレエの特徴といえば、トゥシューズ。つま先の一点で、美しく伸びる足が、バレエの醍醐味です。 その一方、トゥシューズは足に大きな負担をかけます。とくに注意しなくてはならないのは、子供の場合。 子供の足の骨は大人と違い、一部が柔らかい軟骨でできています。 年齢とともに軟骨が骨に置き換わってゆくのですが、完全に大人と同じ骨格になるのは15、16歳以降。 柔らかい骨で、負担のかかるトゥシューズを履けば、変形や骨折が起きてもおかしくありません(多くのバレリーナを悩ませる三角骨も、距骨の骨折によって発生します)。 専門家は、少なくとも12歳までは履かせるべきではなく、それ以降でも筋力やバランスを見極める必要がある、と言っています (参考資料 「トゥシューズの練習を始めるガイドライン」) 実際、プロのバレリーナを育てる海外の学校では、15、16歳まで、トゥシューズを履かせないことも珍しくないそうです。 捻挫の後遺症に注意 バレエで、避けて通れないケガが捻挫です。 「たかが捻挫」と軽く見て練習を続ける人もいますが、お勧めできません。 捻挫は、靭帯が強く引っ張られて、一部がちぎれかけた状態です。 傷ついた靭帯は弱っているので、無理をして踊ると、傷が広がってしまいます。安静を保って、治るのを待つべきでしょう。 意外と知られていないのが、捻挫の後遺症です。 捻挫で関節が腫れた時、関節靭帯や関節包には繊維たんぱく質が沈着し、癒着(貼りつき)を起こします。 痛みが引いた後も靭帯や関節包の癒着は残るので、関節が固く、動きにくくなってしまうのです。 つま先が伸びない、伸ばすと内側に曲がる(カマ足)、動くと痛むなどが主な症状です。 関節の歪みが、踊りそのものを崩してしまうことも。 捻挫の後遺症を防ぐには、リハビリが必要です。 動けるようになったら、関節の可動域を確認し、動きの悪いところを伸ばして可動域を広げてゆきます。 立った状態、動きながらなど、いろいろな形で関節の動きを確認してください。 リハビリをしても可動域制限が残っている場合は、靭帯や関節包に強い癒着が起きている可能性があります。 専門的な治療を受ける方がよいでしょう。 急がない、無理をしない バレエは、美しいだけではなく、運動としてもすぐれています。 姿勢を整え、バランス感覚や、自分の身体を思うように動かす巧緻性などを育ててくれるのです。 もちろん、才能次第では、プロのバレリーナとして活躍できるかもしれません。 その一方、無理をすれば危険も伴うのは、上に書いた通り。 子供の間だけの習い事としてバレエをするなら、注意して無理のない範囲で練習させてください。 もし、本格的にバレリーナを目指すなら、さらに注意深く、時間をかけて育ててください。 子供の人生の本番は、10年も、20年も先なのです。 筆者プロフィール 池浦 誠 八起堂治療院長院鍼灸師・マッサージ師 2005年、関節で生じた癒着(貼り付き)が、不調の原因となっていることに気づき、 癒着の解消に特化した「TAM手技療法」を考案。身体の歪みや固さをとり、自然な動きを取り戻す治療を行っている。 肩こり、腰痛などの他、身体の動きを改善したいダンサーやスポーツ関係者の来院も多い。 「関節の癒着」という概念を広く知ってもらうための講習や、情報発信も行っている。
筆者プロフィール
池浦 誠
八起堂治療院長院
鍼灸師・マッサージ師
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
最新情報をお届けします