長い冬が終わりを告げ、ようやく暖かくなってきました。 暗色の重たいコートを脱ぎ、春物を着て街歩きやショッピングを楽しんだり、お花見やさまざまな行事の準備をされる方もいらっしゃるでしょう。 「身も心も軽くなる」イメージがある春の季節ですが・・・「花粉症」とともに多い症状のひとつに「うつ」があります。 「春のうつ」は花粉症などのアレルギー疾患と同じく、あるとき突然発症することも珍しくありません。 これまで「うつ」とは無縁の方が、ある年の春に急に「うつ」になってしまわれることがあります。 このような「春のうつ」は、風邪と同様・・・いえ、それ以上に、適切に対処しなければ慢性化してしまうこともあるので注意が必要です。 「うつ」と「憂鬱」の違いは? 「うつ」は漢字で「鬱・欝」と書き、語源は「木々が一定の場所に閉じ込められてこんもり茂った中にこもった香りや空気」という意味です。 見るからに気がふさぐような、気が滅入るような漢字ですね。 さらに「憂」という字を組み合わせた「憂鬱」という言葉があります。 「憂」は不満・悲しみ・不安の意味があり、「憂鬱」は「気がはればれしないこと。気がふさぐこと」という状態をいいます。 字だけ見ると「憂鬱」のほうが「うつ」よりも重いような気がしませんか? 実際に「うつ」の経験や知識がない方の中には、「うつ」の方のお悩みを聞いて、 「俺だってパチンコですったときはうつになるよ!」 という程度の理解しかない場合が意外に多いのです。 「憂鬱」とは異なり、治療を必要とする「うつ」は、 ・気分の落ち込みがある ・物事への興味や関心がなくなる ・食欲がなくなる ・なかなか寝付けないか、夜中に何度も目が覚める ・頭痛がする ・活動することができなくなる ・不安で悲観的な考えしか浮かばなくなる ・イライラする ・自分を責めてしまう といった状態が2週間以上続き、そのために「日常生活に支障が出る」ことを指します。 上記の症状を訴えている方がいらした場合、 「それは誰しもが日常経験する『憂鬱』だろう」 と決め付けてしまう前に、 「治療が必要な『うつ』かもしれない」 と思える優しさと思いやりが欲しいものです。 ちなみに「うつ病」という診断は医師にしかできないことですので、医師以外の者が「うつ病」という病名を診断名とすることはできません。 ただ本稿では、現代の健康情報の普及によって、「うつ」という言葉や「うつ」の意味する状態はかなり知られるようになってきたため、一般人も「医療機関にかかるべき状態かどうか」を見極めるための一助となればとの思いで記します。 なぜ、春は「うつ」の季節なのか? 「うつ」と「憂鬱」双方に言えるのですが、「悲しい」「さみしい」「面白くない」といった感情は「気分が沈む」ことにつながっています。 春から夏にかけては「明るい・活発・陽気・賑やか・カラフル・ハイテンション」というイメージがあります。 秋から冬にかけては「暗い・不活発・陰気・静か・モノトーン・ローテンション」というイメージでしょうか。 「悲しい」「さみしい」「面白くない」といった感情になりやすい季節というと、イメージ的に秋から冬の季節が想像できると思います。 ところが、「悲しい」「さみしい」「面白くない」などの感情は、実は春にいちばん多く抱きやすいのです。 春が悲しかったり、さみしかったり、面白くなくなったりするのはなぜでしょう。 これは「春は変化の季節」だからです。 卒業・入学・就職シーズンのいま、春は「別れの季節」「旅立ちの季節」とも言われます。 春は、これまで慣れ親しんだ環境への別れであり、新しい環境への旅立ちという「変化」が伴う季節なのです。 自分の部屋や教室、受験勉強、友人、恩師、部活、同僚、なじみの店、ふるさと景色などとの別れのほか、好きだったテレビ・ラジオ番組やその出演者との別れなどの影響も少なくありません。 同時に新生活として用意されている新しい世界に、とまどいながらも順応していくことを周囲から押し付けられます。 感受性の強いお子様や、はじめて単身で新生活を送られる方、はじめてママになる女性、家庭環境が変化するシルバー世代の方など、人生いくつになっても「変化」は訪れます。 四季を通じて社会的にも日常的にも、もっとも大きな「変化」──大きな変化、小さな異動がいくつも訪れるのが春なのです。 「うつ」が襲ってきたときの対処法 上述の治療を必要とする「うつ」の症状が出た場合にはどうすればいいでしょうか。 1.医師に診てもらう 普段から健康診断を欠かさず、早め早めに医療機関を受診する方の場合、お医者さんにかかることには慣れていらっしゃるかもしれません。 しかし「うつ」という精神的な症状の場合、精神科や心療内科にかかることには多少の抵抗感を感じてしまうものです。 その場合、かかりつけの「一般内科」でも構いませんので、ぜひ相談してみてください。 じっくりと親身になって話を聞いてくれるお医者さんの場合、きっと患者様に合う処方をしてくれるでしょう。 よく、 「『うつ』の薬は飲みたくない」 とおっしゃる方もいらっしゃいますが、私は必要な薬は飲むべきだと考えています。 不安をなくし、こころをおだやかにする薬や、寝つきをよくする薬は、必要としていらっしゃる患者様には何よりもありがたいものなのです。 2.話を聞いてもらう 「うつ」になっている具体的な理由・原因がある場合、人に話を聞いてもらうことが必要です。 ご家族やパートナー、友人、学校の先生、同僚の方など信頼できる方に相談されるのがいいのですが、もし周囲の身近な方が「うつ」に対する理解がない場合──先述した、「パチンコですったときはうつになる」という認識しかない方しかいない場合、あるいはひとり暮らしをされている方の場合は、お近くの心理カウンセラーに相談してみるのもいいでしょう。 地域の保健センターでも精神保健福祉士という方が相談に乗ってくれます。 3.別の刺激で脳を活性化させる 「うつ」は脳内の神経伝達物質が分泌されなかったり、伝わりにくくなったりすることで起こります。 別の刺激を与えることで、脳内の神経伝達物質を調整し、気分を安定させる効果があります。 ①音楽療法 音楽療法の世界ではさまざまな症状によって効果別にクラシックの曲目が挙げられていますが、「うつ」のときはモーツァルトやワーグナーの曲の、聴いていて心地良いほう(曲に共鳴できるほう)が「うつ」からの脱出に効果があるようです。 ②芸術療法 絵画や書道があります。 何でも構いませんので、無地の紙に筆で書画を表現します。 線を書くだけでもよいですし、自分の名前を書くだけでも構いません。 自分の書(描)きたいものがそのまま素直に表現できるようになれば、かなり良くなってきたと言ってもいいでしょう。 ③演劇療法 俳優になろうとするような難しい理論や技術ではなく、なりたい人物の「真似」をする技法です。 なりたい人物とは、その対象が映画やドラマのヒーローやヒロインに限らず、脇役(バイプレーヤー)、声優、アイドル、三枚目、悪役、お笑い芸人、スポーツ選手、主治医、学校の先生、コマーシャルの出演者、知り合いの人などなど・・・どんな人でも、 「あの人の、ここのところ、真似したい! 自分のものにしたい!」 と思われたら、即実行です! 「もし、あの人だったら、どうするかな?」 「こんなとき、どんなセリフを言うかな?」 と思って、やってみましょう。 現実生活で困難に直面したときでも、ご自分の中の「あこがれの人」に“代弁”してもらうことで、それがご自分に中での「変身」になり、ステレオタイプだった生き方から脱皮できるチャンスにもなります。 4.ツボを使った対処法 「うつ」や不安、強迫観念などに対して、東洋医学では手首の周りと指先を刺激する方法がありますが、「うつ」のさなかにいらっしゃる患者様は、ツボを正確に見つけて刺激するのは難しいと思います。 そこで次の簡単な方法を伝授いたします。 ①ブレスレットをする 値段の安いもので構いませんので、天然石のブレスレットを左右お好きなほうの手首に着けてみましょう。 石の種類はお好きなもので構いませんが、お店で選んだときに心がときめく色・素材が最適です。 手首の小指側(尺側)に親玉がくるように着けますと、意識がその部分に集中し、精神的な不安感に効果のあるツボを刺激します。 ②指先を爪の部分を左右から挟みます。 親指から小指にかけて、ちょうど爪の付け根の部分を「痛気持ちいい力加減」ではさんでいきます。 はさんだとき、「うつ」のときは左右どちらかの薬指か小指がジーンと響くように感じます。 気持ちのいい指を、適度な圧ではさみ、ゆっくりと10秒カウントして、スッとはなして、また10秒はさんで・・・と5回繰り返します。 このときあえて「嫌なこと」を思い浮かべながら指をはさんでいますと、だんだんに「嫌なこと」が順化して、「うつ」になっている状態を客観視できるようになってきます。 最後に 春は周囲の人々が明るく朗らかで活動的に見えるぶん、孤独感を益す季節でもあります。 「春のうつ」はアレルギー疾患と同じくデリケートな方に多くみられます。 昔から「春に三日の晴れなし」と言いますが、皆様が一日でも早く気分を安定され、お一人おひとりの個性あふれる「2016・春」を楽しまれますことを心より願っています。 筆者プロフィール 加藤 水男 聖母治療院院長 東洋鍼灸専門学校、東京医療専門学校 鍼灸マッサージ教員養成科を卒業。 専門学校の講師を勤める傍ら、1998年往診専門の漢方紫禁堂治療院を開院。 皇族方への鍼灸マッサージ治療・心理カウンセリングを行う。 鍼灸マッサージ治療と並行しながら、心理カウンセラー・一般社団法人日本TFT協会認定セラピストとしてメンタルケアに従事。 2015年聖母治療院と改称し、現在に至る。
筆者プロフィール
加藤 水男
聖母治療院院長
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