つま先着地の歩き方。 前回「つま先着地を〝意識して〟歩いてみてください」と書きました。 歩いてみた方も歩かなかった方も、改めてつま先着地を意識して歩いてみましょう。そして今回も歩くときに気にしてみてください。 今まで踵着地で歩いていた場合、まず踵で着こうとしてからつま先着地しませんでしたか? そしてつま先で着地するといつもより歩幅が広くなってバランスをとるのが難しいことに気づくと思います。 和式歩行の基本はすり足。 洋式歩行は踵から着地して順に指先まで接地して蹴り出す、「後方蹴り出し」を推進力とした歩き方になります。 これに対し〝片脚を前に出す〟ことによって進んでいるのが和式の歩き方。いわゆるすり足での歩き方です。 前に出した脚を(膝を)軽く曲げ、前足に寄せるように後ろ足を運びます。後ろ足で蹴らないんですね。つまり和式歩行は「前方踏み込み」が推進力になります。 そして着地はつま先から行い、腰より上は殆ど動かない。 この歩き方は草鞋や下駄などの鼻緒がある履き物や着物、いわゆる和装に適した歩き方になります。歌舞伎や能の歩き方を想像してもらうと分かりやすいと思います。 個人的には「しゃなりしゃなり歩く」と言う表現は、この歩き方がしっくりくると思います。 ちなみに「すり足」と言うと文字通り足裏を摺って歩くことなのですが、屋外では完全なすり足で歩きません。履き物の底をみせない(踵を高く上げない)〝すり足気味〟の歩行になるのです。 また和式歩行は歩幅の大きな、いわゆる大股開きの脚運びには向きません。和装との相性もあるのですが、膝を軽く曲げた状態で脚を出すためむしろ歩幅は小さくなるはずです。 つまり踵着地の時と同じ脚運びでつま先着地にした場合、歩幅との関係上バランスを取るのが難しくなります。 蹠行(しょこう)と趾行(しこう)。 蹠行(しょこう)とは足の裏全体を使って行う歩行のことで直立時の安定性が増します。そして人間は蹠行性の動物です。 実際につま先立ちしてみた時と普通に立っていた時と感覚を比べてみてください。踵が地面に接地した状態の方が安定していると感じるはずです。 これは歩くときにも言えることで、踵を着くことにより接地面が大きくなり安定します。 ちょっと待って。人間の歩き方が蹠行なら、踵着地の洋式歩行の方が正しいんじゃないの? そんな声も聞こえてきそうですね。 もちろん踵着地で歩くのも蹠行です。しかし蹠行とは踵を含む足の裏全体を使って歩くことです。踵から着地をすることに限定して蹠行と言っているわけではありません。 そして和式歩行もつま先から着地するだけで踵をついていないわけではないのです。つま先(特に拇指球)に重心は寄りますが踵も使っています。更には膝を曲げた状態で脚を出すため、膝の屈曲がサスペンションになり山道などの足場が不安定な場所での移動に力を発揮します。和式歩行はつま先から着地するというだけで、つま先のみで歩いているわけではないのです。 つま先着地で踵をつけないのは趾行(しこう)と呼ばれる歩き方になります。いわゆるつま先立ちの状態ですね。またつま先立ちになることで脚の長さが稼げるので、後方蹴り出しと相まってストライド(歩幅)が大きくなり高速移動を行えます。 人間の場合ですと走る時がこの趾行に近い足使いになります。もちろん人間はつま先立ちで歩くことも可能ですが、特殊な場合を除いて通常はしない歩き方です。 ところでつま先を使った歩き方(走り方)だと歩幅が大きくなるんなら、つま先着地の和式歩行は逆に歩幅が大きくなるんじゃ……と思った方、よく読んでますね。 和式歩行にはいくつか特徴があります。膝を軽く曲げた状態での脚出しと前方踏込みの推進。また上半身が大きく動かない(捻らない)のも特徴です。この要件を満たした状態で歩こうと思うと、ストライドは大きくとれません。和式歩行では素早く動く場合はピッチ(歩数)が増えるのです。 日本人の洋式歩行は、実は不完全。 つま先着地を勧める一番の理由は、やはり踵着地による負担の軽減です。 実は現代の日本人の歩行を見てみると、洋服を着て靴を履き踵着地で歩いていても膝を曲げていたり踵を引きずってみたり、和式歩行のクセが抜けきっていない人が多数見受けられます。現代日本人の歩き方は洋式歩行に分類されますが、それは完全なものではなく和式歩行とごちゃまぜになった歩き方をしているのです。 ですから昔ながらの和式歩行とまではいかなくても、つま先着地を意識するだけで和式歩行に近い歩き方になります。そしてつま先着地の歩き方で体は変わります。 二本足で直立する人間にとって足の裏はすべての起点。重要なセンサーの役割をもっているのです。ですから足(足の裏)の使い方ひとつで健康にも不健康にもなります。 その役割を担うのが、つま先を使うことにより鍛えられる筋肉。ふくらはぎの筋肉もそうなのですが、足の甲――もっと言うと第二中足骨の間にある骨間筋を鍛えることになります。 この骨間筋が鍛えられると何がいいのかは次回に。 筆者プロフィール 河野 伸幸 筋整流法 専門指導施術師 筋整流法 東広島道場 道場主 350年続く武術流派の活法であった〝腱引き〟。その腱引きの技を元に現代に合うよう改良されたのが『腱引き療法』になります。 お店の名前が道場となっていますが、これは武術の活法が起源であること。また一方的に施術するだけでなく共に学び合う場所、という意味が込められています。 どこに行ってもダメと諦める前に、腱引き受けに来てみんさい!
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筆者プロフィール
河野 伸幸
筋整流法 専門指導施術師
筋整流法 東広島道場 道場主
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