繋がりを意識してみよう。骨と筋肉の関係。
人は認識できる範囲内でしか動かせない。
前の記事では「使えるはずの筋肉を使っていない」というお話でした。その中で「腕ってどこからどこまでだと思いますか?」という問いかけをしたと思います。
改めて聞いてみます。
アナタはどこからどこまでが腕だと思いますか?
たぶん、多くの人が「肩から手までが腕」と答えると思います。
もう少し運動(特に体の動かし方)について考えたことがある人は「肩甲骨から指先まで」と答えるかもしれません。
実は……どちらも正解です。
なぜならそれが、アナタの認識している腕の長さだからです。
前回書いた「手の甲を上にして腕を伸ばしたまま甲を翻さないで肘の裏側を上にする」という運動を覚えていますか?
できない人でも手を固定すると肘の回転が出来たはずです。これは機能的に可能な動作でも動かせることに気づいていないと動かないということなのです。
それと同じで改めて問いかけられた時、認識(意識)できる範囲でしか人は体を自由に動かせません。
肩から手までを腕と認識している人は、腕を動かして下さいと言った時に肩~手までの範囲でしか意識的に腕を使えないのです。
では私が考える腕というのはどこからどこまでか?
それは、鎖骨から指先までです。もっと言うと鎖骨の胸鎖関節側の付け根から指先までです。
骨格でみると背中とは直接繋がっていない。
骨格模型を見てもらえば分かると思のですが実は骨のみで見た場合、指先から辿って行くと胸鎖関節(鎖骨と胸骨のつなぎ目)の部分で体幹と繋がっているんです。
上腕骨(力こぶができる部分)は肩甲骨と肩関節で繋がっており、肩甲骨は鎖骨と肩鎖関節で繋がっています。そして鎖骨は胸鎖関節で胸骨に繋がっているのです。
更には胸骨は肋骨に繋がり、肋骨は胸椎(背骨)に繋がります。
つまり骨として繋がっているのは体の前面であって背中側では繋がっていないのです。
もちろん人間は骨のみでは成り立ちません。靱帯で繋がり、筋肉によって人間の形というものを成り立たせています。
ですから肩甲骨は筋肉で考えると頸椎や胸椎と言ったいわゆる背骨(背中側)と繋がっていますし、筋肉によって形を維持・運動をしているからこそ腱引きのように筋肉に対するアプローチが有効になります。
ですがとりあえず、筋肉のことは気にしないでください。今は骨のみを考えて、指先からたどって行ったら鎖骨に繋がりそこから体幹に繋がると考えてください。
そして腕は鎖骨から始まっていると気づいてもらうために、次の動作をして見てください。
動きの起点を気にしてみる。
・右手でも左手でも構いません。片手で反対の肩を指で触ってみてください。
・そこから鎖骨を辿り首の方向へと指を進めます。すると出っ張りを触ることができると思います。この出っ張りと胸骨のつなぎ目が肩鎖関節になります。
・今度はその出っ張りに触れたまま、反対の腕(右手で鎖骨を触っていたら左腕)をラジオ体操のように大きく振ってみてください。すると触っている鎖骨の部分が動くのが分かると思います。
・動くのが分かったら、次に腕を垂らした時、そして水平まで挙げた時の違いを感じてみてください。腕を動かす度に鎖骨が動いているのが分かると思います。
「でも、腕を動かさなくても肩を回すだけでも鎖骨が動くのでは?」と思ったアナタ、さすがです。自分の体をよく観察してますね。
確かにそうなのです。腕を挙げたりしなくても鎖骨は動くのです。
でも大事なのは何か?それは腕を動かしても鎖骨は動くということなのです。
デッサン人形のように肩の部分だけでグルンと回して腕を挙げているわけではないのです。腕を挙げるとその一部として鎖骨も動いているのです。
だから腕というのは、手・前腕・上腕といったパーツで腕ではなく、手の骨(指先から)・前腕の骨(尺骨と橈骨)・上腕骨・肩甲骨・鎖骨といった繋がりで腕だと思って下さい。そして各骨は関節で繋がって動くようになっていると。
その全てが連携して動けば関節が多い分、鞭のように柔軟な動きができるのです。
もし職場や学校などでラジオ体操をする機会があったら第一体操の1~5を、鎖骨(上記の指で触れた部分)を意識してやってみてください。腕の振りが変わってきます。
もし隣とギリギリ当たらない距離でやっていたら、手が隣の人に当たってしまうかもしれません。
可動域の基本は骨格によって決まる。
ここで前の記事を読んだ方は「筋肉の連携で動きが柔らかくなると言ってたはずなのに、今回は関節(骨格)の連携で動きが柔らかくなると言っている。矛盾している」と考える方もいると思います。
骨を動かしているのは筋肉ですが、その動きは関節(骨格)のルールに準じています。
筋肉は通常、一つ以上の関節をまたいで両端が骨格に付着しています。関節の運動軸に合わせて筋肉は付着しているのです。
ですから関節として曲がらない方向には、当然のことながら動かすことはできません。世の中には関節が柔軟で可動域が広く通常では考えられない方向へ曲がるという方もいらっしゃいます。
しかしそういった方でも、関節の構造上曲がらない方向に曲げているわけではないはずです。
そう考えると、動ける範囲というのは実は骨格によって決まってくるとも考えられるわけです。
「肘の回内・回外運動」だって肘を動かしているのは筋肉ですが、前腕の尺骨と橈骨が捻れるように関節が構成されてるから可能な運動なのです。
一つの動作に多くの筋肉を連携させるというのはひとつの理想ですが、約400あると言われる骨格筋を一つひとつ意識して使うというのはなかなか難しいです。
しかし体の一番奥――芯である骨格を意識して動かすことにより、深層の筋肉から動かすことができる……かもしれません。
普段の生活の中でたまにでいいです。この動きはどこの骨(関節)が動いているのかを気にしてみてください。
筆者プロフィール
河野 伸幸
筋整流法 専門指導施術師
筋整流法 東広島道場 道場主
350年続く武術流派の活法であった〝腱引き〟。その腱引きの技を元に現代に合うよう改良されたのが『腱引き療法』になります。
お店の名前が道場となっていますが、これは武術の活法が起源であること。また一方的に施術するだけでなく共に学び合う場所、という意味が込められています。
どこに行ってもダメと諦める前に、腱引き受けに来てみんさい!
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